直根苗を利用した斜面対策工

和歌山県は豊かな自然と森林資源に恵まれ、人々と自然が共存してきた歴史があります。しかし現在、安価な輸入木材の増加により管理が行き届かない放置林が増加し、地盤の弱体化や災害リスクの増加が深刻化しています。これは面積の約7割が森林である日本全体の問題でもあります。

私たちはこの問題に対して、以下の2つの解決策を提案します。

① 木を使う:「木材の有効活用 」 林業が可能な地域では放置林を活用し、木材資源を有効に利用。

② 木を育てる:「直根苗(ちょっこんなえ)を活用した広葉樹林化」 管理が難しい地域や災害リスクが高い地域には、土壌を支え災害を防ぐ広葉樹の直根苗を植える。

直根苗は広葉樹のどんぐりの根を長く育てた苗木です。削孔機で深く掘った孔に植えることにより地中深くまで強い根を張ることができ、土壌を安定化させ水害を軽減します。また、広葉樹林の再生により生態系の回復や温暖化防止にも寄与します。

私たちは『自然を支える土木プロジェクト』として直根苗を活用した新たな工法や、木材を有効利用した木製ガードレールなど山の保全と防災を目指す取り組みを推進しております。人と自然が共生する持続可能な未来を築くための活動を展開しています。

特長

防災・減災

削孔し良質土を充填することで、苗の発育を補助し直根が深くまで根付く手助けができ、根がより深く基岩層まで達することにより直根の杭効果と側根の網効果で法面を安定させ、防災・減災に役立ちます。

生物多様性の保全

針葉樹からなる人工林が多い地域に広葉樹(クヌギ、カシ等)を植えることにより生物多様性の保全が図れます。

高い成長率

苗を植えることで発芽率の懸念がなく、その土地に本来生えている植物種をピンポイントで成長させることができ、潜在自然植生を促進できる。

続く法面安定化

経年劣化する従来工法に対し、生きた木の根からなる杭と網が年々成長し、法面安定効果が増していきます。

直根苗による法面安定化

STEP

直根苗の育苗

直根苗を約40cm程度まで成長させます。

STEP

法面へ深さ1m程度削孔

のり面へ深さ1000mm程度削孔、良質土を充填し直根苗を植え付けます。

STEP

直根苗が大きく成長し法面を安定

法面を深く掘って直根苗を植えたことで、根が重力方向に強く伸び、基盤層まで到達しやすくなる。また横方向にも大きく広がることで法面全体を抑えることができ法面が安定する。

STEP

広葉樹林化

地域潜在植生に適した広葉樹林となります。

設置したウッド筋工にどんぐりを置いた実験

傾斜が急で岩が多く見られるような法面でも、ウッド筋工が作る棚にどんぐりなどをとどめ、発芽させることができます。
またウッド筋工の雨水等を取り込む保水効果で、植物がしっかり根付くまで成長させられることが分かりました。

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現場の土質:
急斜面で岩が多く植物の生育に適さない

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ウッド筋工設置後

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植生基材吹付後
どんぐりを置き約3ヶ月後の成長したウバメガシ(広葉樹)

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約15年後の成長したウバメガシ

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筋工部に沿って成長した木々

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二次更新された幼木(ウバメガシ)

メッセージ

自然共生時代の国土管理にむけ、生態系を活用した減災技術が注目されています。
先祖の知恵を科学的に見つめなおして継承し、現代の技術として発展させていきます。
もともとの風土に合った樹種を活用し、住民の手で山や暮らしを守っていきましょう。

 清野 聡子(九州大学大学院工学研究院環境社会部門生態工学研究室 准教授)